「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第129話
最終章 強さなんて意味ないよ編
<新素材と二つのギルド>
「え? アクリル板、作れないの?」
「そんなの、当たり前だろ」
ロクシーさんを見送った後、私は一度城へ帰ってさっき提案された料理店に設置する透明な壁、すなわちアクリル板の製作をアルフィスに依頼しに行ったのよ。
ところが彼から帰って来た言葉は無理の一言だった。
「どうして? アクリル板の作り方だったら図書館にある私が集めた本の中にあるはずでしょ。あれは店の装飾とかにも使うし、なにより合成樹脂はファッションにも使うものだから、私の持っている資料集の中にその製造方法の資料が入ってないなんて事はありえないもの」
「ああ、確かに作り方が書かれた本は見つかるだろうし、道具職人の技術を持つ俺なら作る事もたやすいと思うよ。でもな、それはあくまで材料がそろっていればの話だ。原材料になる石油が無いのに、どうやって作れって言うんだ?」
あっ! そう言えばそうだ。
合成樹脂の原材料である石油はバクテリアやプランクトン等の死骸からできているのだから、探せばこの世界でもどこかに埋蔵されているとは思うのよ。
海にいるプランクトンはともかく、病気になる人がいる以上バクテリアはいるはずだからね。
でも、どこにあるかも解らない油田を探すために大陸中に人を送るなんて事はできないし、何よりそんな事をしていては見つかるまで何年掛かるか解ったもんじゃない。
と言う訳で、アクリル板の製作は断念する事になった。
「それじゃあ別なもので作る必要があるわよね」
「耐熱性があって透明度が高ければいいんだろ? それなら牧場にいるエンシェントシルバードラゴンの翼膜でいいんじゃないか? あれならアクリル板なんかよりよっぽど強度が高いし、熱にも強い。ピッタリじゃないか」
はぁ〜。
そんな能天気なアルフィスの言葉に、私は深いため息を洩らす。
解ってないなぁ、そんなの使えるわけないじゃない。
「あのねぇ、高々10レベルそこそこの騎士が皇帝陛下の近衛兵になるような世界なのよ。そんなところにエンシェント、それもドラゴンの中でも最強クラスのシルバードラゴンの素材を使えるわけないでしょ!」
「そうか? 最強クラスって言ってもカラーの中でだろ? 属性竜にもいたってないドラゴンのエンシェントなんて、この城の牧場で飼われているドラゴンの中でも最下級だぜ? それにギャリソンが調べた話じゃこの世界にもグリーンドラゴンを倒した奴がいるらしいし、属性竜であるフロストドラゴンが人の住む場所近くの山に住んでるって話じゃないか。ならそんなに心配するほどの事じゃないだろ」
そんな事を言ってアルフィスは笑うけど、私からしたらとんでもない話だ。
グリーンドラゴン? 一応色つきの名前だからカラードラゴンに含まれてるけど、あれの強さはグラウンドドラゴンと同程度で20レベルに満たないパーティーでも倒せる最弱の部類に入るドラゴンじゃない。
それに対して同じグリーンドラゴンでもエンシェントとなれば、少なくとも40レベルはないと挑めないのよ? それがドラゴンの中でも強い方に入るシルバーやゴールドのエンシェントとなれば、この世界の人間ではどう逆立ちしたって太刀打ちできないモンスターだって事くらい解らないのかしら?
「とにかく、エンシェントシルバードラゴンはダメよ。店が評判になれば偵察に来る人も出て来るだろうし、その中にもし鑑定ができる人が混ざってたら大騒ぎになっちゃうでしょ」
「ああ解ったよ。でもさ、ならどうするつもりなんだ? 透明で強度がある素材なんて、そんなにないぞ」
そうだなぁ、モンスターの素材には透き通っているものも結構あるけど、透明となると殆どないのよねぇ。
となると、やっぱり鉱物を使って作ったほうが早いかなぁ。
「鉛の含有量を少し高めて強度を上げたクリスタルガラスを作って、お客さん側を天然樹脂でコーティングするのが一番かなぁ。これならよっぽどの事がないと割れる事はないだろうし、調理側はガラスのままだから油汚れを掃除するのも楽だしね」
「それが一番手っ取り早いか。でもいいのか、マスター。これってこの世界にはない技術なんだろ? 化学物質から作るアクリル板ならともかく、クリスタルガラスならこの世界の人間でもまねできるんじゃないか?」
「う〜ん、そうなのよねぇ。だから本当は避けたかったんだけど、他にいい案が浮かばないから仕方ないじゃない」
私としてはあまり現実の世界の技術をこの世界に流出させる気はないのよね。
と言うのも、あからさまにこの世界のものではない技術だと悪目立ちするからなのよ。
例えば今度売り出す果物とかなら過去にこの世界に来たプレイヤーが残したものを地方の村で細々と作り続けている人がいて、それに目をつけた人が売れると考えたとしてもおかしくはないし、たとえそこから私たちが注目されたとしても一応バハルス帝国の友好国という体裁はとってる上に逃げ道となる我が国のバックボーンストーリーも考えてあるからいいんだけど、今までには無かった現実世界の技術が急速に広まったとなるとそうはいかない。
それを伝えたのは新しくこの世界に来たプレイヤーじゃないのか? って誰でも考えるだろうからね。
アインズ・ウール・ゴウンを名乗るものが現れた以上、私たちがプレイヤーであるという情報はあまり広めたくないのよ。
それだけにクリスタルガラスはあまり世に出したくはないんだけど、ロクシーさんにもう店を出すって約束しちゃったから仕方ない。
あのギルドは異形種ギルドだから流石に美食を求めて色々な町で食べ歩きをするなんて事も無いだろうし、ましてやこんな辺境の街に開いた店に偶然立ち寄るなんて事は有り得ないだろう。
それにたとえこの技術が広まったとしても最初は中央の大貴族の間でしか使われないだろうから、流石に私たちのレストランがその技術の発端だなんて余程の事がない限り気付かれないはず。
そんな希望的観測で、私はクリスタルガラス製作にGOサインを出したんだ。
さて、ロクシーさんと共同で出す店に関してはこれでいいとして、元々のお店を開く準備も始めないとね。
と言う訳でその晩はイングウェンザー城に泊まって、次の日の朝早くにゲートを開いてイーノックカウの大使館へと戻った。
「あっお帰りなさい、あるさん。アルフィスとの話し合いはもう済んだの?」
「ただいま、まるん。ええ、ちょっと不本意な結果にはなったけど、とりあえず問題なく進むと思うわ」
朝食のフルーツと甘々の生クリームがいっぱい乗ったパンケーキを食べていたまるんに帰還の挨拶をして、私も食堂のテーブルにつく。
とは言っても私はもう城で朝食を済ませてきたから、ここではお茶を飲むだけなんだけどね。
館のメイドに出してもらった紅茶を一口含んでから、まるんに今日の予定を伝える。
「まるんの食事が終わって少し休んだら、まずは商業ギルドに顔を出すわよ。出店をするに当たって色々と手続きもあるだろうし、その他にも店を出す際の説明も聞きたいからね。その後はユミちゃんたちがいる別館へ。あそこに1階を改装して店を開くつもりだから間取りの確認とかをしなきゃいけないし、どうせならロクシー様に頼まれたレストランもあの館の庭に建てちゃおうって考えてるから、どこに建てたらいいか視察しないといけないものね」
「なんか忙しい一日になりそうだね」
「そうね。でも今日の予定の殆どは、これからの前準備だからそれ程大変ではないと思うわよ」
そんな話をしながら、私たちは朝ののんびりとしたひと時を楽しんだんだ。
「ここが商業ギルドなのね」
私たちはイーノックカウの中心部にある大きな建物の前にいた。
石造りの立派な建物であるそこは、まるんの話によるとギルドとは言っても商工会議所のようなもので、各種手続きや税金の相談、それに商売に必要なお金の融資とかもしてくれる場所なんだそうな。
中に入ると長いカウンターと、そこに並ぶ各種受付が私たちをお出迎え。
「まるんとカルロッテさん、それにギャリソンはここに来た事があるんでしょ? ならギャリソンに案内してもらえば大丈夫かな?」
「はい。お任せください、アルフィン様」
あまりの受付の多さにちょっと気後れしたけど、ギャリソンの事だからどこに行けば何ができるかまでしっかりと把握しているだろうから大丈夫。
私はその後を付いて行くだけで目的の場所へとたどり着く事ができるはずだ。
と言う訳で、お役所特有のたらいまわしにあう事も無く、出店するにはどうしたらいいのか、届け出は開店のどれくらい前までにすればいいのか、この町の税率はどうなっているかなどを聞き、そして最後に手続き時に提出する書類を手に入れてこの商業ギルドでの用事を全て終了。
ただその間に掛かった時間はたった1時間弱で、まさかこんなに早く終わるなんて思ってなかったから別館に訪れると連絡してある時間にはまだかなり時間があるのよねぇ。
この手の事には時間が掛かるのが当たり前だと思っていたから、私はてっきり昼前中はかかるのだろうと考えていたのよ。
だから向こうには遅めの昼食を取ってから向かうなんて言ってあるから、今から向かったりしたら昼食の準備などで余計な手間をかけさせてしまうだろう。
それでもきっと「私たちはアルフィン様方にお仕えする為に生まれてきたので」なんて言いながら対処してくれるんだろうけど、彼らにはちゃんと仕事をあてがってこの街に駐留させているのだから、そんな彼らに無理をさせるのは私の本位ではない。
と言う事で急遽予定変更! 冒険者ギルドと言う所にも行って見る事にしたんだ。
冒険者ギルドと言えば色々な物語に出てくる、荒くれどもの集まる無法地帯! そんなイメージを期待して、わくわくしながら向かったんだけど。
「ああ、やっぱりあるさんも私と同じ様な事を期待してたのか」
まるんからこう指摘があったように、その外見は私が想像したものとはまったく違っていて、中に入ってからも誰かに絡まれるなんて事も無く、すんなりとカウンターまでたどり着く事ができてしまった。
「いらっしゃいませ、イーノックカウ冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件ですか?」
その上、受付の女性からはそんな明るい対応をされてしまったものだから、私の中の冒険者ギルド像はガラガラと音を立てて崩れて行くのだった。
さて、そんな状態になってはしまったものの、折角ここまできたのだから何もせずに帰るのはつまらないだろう。
だから私は、前にまるんたちがこの冒険者ギルドを訪れた時と同じ様に、情報をもらう事にしたんだ。
「確か冒険者ギルドは情報を扱っていたはずよね? ここに居る家令から説明は受けたけど何か追加で新しい情報が入っているかも知れないから、それを聞いてみたいわ」
「それでしたらこれを。後、前に来た時にリーナと言う受付の方に担当していただいたのですが、その方はいらっしゃいますか?」
「はい。呼んで参りますので、少々お待ちください」
ギャリソンは何やら木札のようなものを受付の子に差し出して、前に担当してもらった人を呼び出した。
それに興味が引かれた私は、さっきの木札は何かと聞いてみた所、
「前にここを訪れた時、支払った額よりも情報の価値の方が低いからと渡されたものです。新たに必要な情報が出てきた場合、あれを出せばギルドにある情報なら教えてくださるとのことでした」
との答えが帰っていた。
ああなるほど、情報に対してあんまり多く貰いすぎていたりすると、色々と不都合がでそうだもんね。
特に相手が貴族やそれに連なる相手だったりしたらたとえ冒険者ギルドほどの大きな組織だとしてもかなり面倒な事になりそうだもの、それ用の対策って訳か。
こうして待つこと2〜3分、受付の奥の扉から2人の女性が現れた。
1人はさっきの受付嬢だから、もう一人がリーナって言う子なんだろうね。
「お待たせしました。では前回と同じ様に部屋を用意してありますから、こちらへ」
そう言うとリーナであろう受付嬢はカウンターを出て二階へと繋がる階段へと私たちを案内したので、私たちもその後に続く。
で、つれて来られたのは二階にある一番奥の扉の前で、まるんが言うには、
「またこの部屋なんだ。あるさん、ここって商談用の部屋なんだって。意外と豪華なんだよ」
だそうな。
そんなまるんの子供っぽい言葉に受付嬢は笑顔を浮かべて扉を開けたんだけど、次の瞬間、何故か彼女は石にでもなったかのように固まってしまったのよね。
あれ、どうしたんだろう? 部屋の中に先客でもいたのかしら? そう思って開け放たれたドアの向こうに視線を送ってみたけど、そこは誰もいない空室だった。
と言う事は部屋が理由じゃないんだよね? なら何故?
そんな急に固まってしまった受付嬢を見て、一番驚いていたのはカルロッテさんだ。
「どうしたのリーナさん、何か問題があった?」
この言い方からすると、カルロッテさんはこのリーナと言う受付嬢と知り合いみたいね。
そう思ってまるんに視線を送ると、
「うん。前ここに来た時に、カルロッテさんがそんな事を言ってたよ」
と答えてくれたから間違いないだろう。
なら彼女に任せておけば、リーナさんが固まってしまった理由も解るはず。
なので私たちは一旦引いて、全てをカルロッテさんに押し付けたんだ。
「ねぇリーナさん、大丈夫なの? もし何か大きなトラブルがあったのなら、下に行って応援をつれてくるけど」
「・・・カルロッテさん」
「なに? 私が出来ることなら何でも・・・」
「あなた、前に都市国家イングウェンザーで働く事になったといっていたわよね?」
「ええ、言ったわよ。それがどうかしたの?」
へぇ〜、前来た時にそんな話までしてたのか。
と言う事はこの二人、結構仲がいいんだろうね。
ただの冒険者とギルドの受付嬢と言うだけの間柄なら、今の就職先の話なんてするはずないもの。
「先ほど、前回あなたがお連れしたお嬢様が、そこにいらっしゃる美しい女性の事をあるさんと御呼びしたように聞こえたんですけど」
「え? ええ。確かにそう仰られたわ」
あれ? なんか話がおかしな方向に行ってない? なんか嫌な予感がする。
「と言う事はもしかして、あのお方は?」
「ええ、今私が夫と共にお世話になっている都市国家イングウェンザーのアルフィン様よ」
その言葉を聞いた後のリーナさんの行動は本当に早かった。
100レベルの私ですら、一瞬その動きが見えないんじゃないかって錯覚するほどだったもの。
で、そのリーナさんがした行動と言うのが、
「平にご容赦を! アルフィン女王様。そんな偉い方とは知らず、とんだご無礼をいたしました。私のような者ではなく、うちのトップであるギルド長がすぐにお相手しますので、いや、させて頂きますのでもう少しだけ、もうお少しの間だけご辛抱ください」
THE・土下座。
これ以上ないほどの見事な平伏だったのよねぇ。
それを見た私がカルロッテさんのほうに眼を向けると、
「すみません。前回ここを訪れたときに私の身の上話としてアルフィン様のことを少しお話したのを彼女が覚えていたようで」
少しだけ困った顔をしながらそう話してくれた。
なるほど、だからまるんが私の事をあるさんと呼んだのを聞いて、気が付いたのか。
「でも、そう言えばアルフィン様をご案内するのですから、ギルドマスターに対応してもらうのが当然でしたね。すみません、私も失念していました」
「いいのよ。私だって別にそんな対応をしてもらおうと思ってなかったんだし、商業ギルドでもそうだったでしょ? それにこの人を指名したのはギャリソンですもの、カルロッテさんに落ち度はないわ」
あんまり仰々しい扱いを受けるのは好きじゃないのよね。
だから、できる事ならこのリーナって人に担当して欲しいんだけど・・・。
そう思って視線を下に向けてみると、そこには未だ額を床に擦り付けんばかりに見事な土下座を披露する受付嬢の姿が。
そんなリーナの姿を見て、ここからどうやって普通の対応をしてくれるまで持っていけばいいのだろう? と、首を捻るアルフィンだった。
あとがきのような、言い訳のようなもの
作中に出てきた都市国家イングウェンザーのバックボーンストーリーと言うのが気になった方は、外伝2 年末年始で語られているのでそちらをどうぞ。
最近は地位の高い人ばかりが登場しているために忘れがちですが、本来なら一国の女王が突然目の前に現れたら、平民ならこんな風になってしまうでしょうね。
まぁそれ以前に、こんな所にふらふらと現れる女王なんてものもいないでしょうけど。
暗殺の恐れがない(と言うか、この世界の者では暗殺なんかできっこない)アルフィンだからこそ、周りが止める事も無く、こんな行動ができていると言うことなんでしょうね。